水系洗浄剤によるHDD部品等の超精密洗浄

荒川化学工業梶@研究部 前野純一

はじめに

 従来、狭間隙物、袋穴、カップ状物、毛細管状物、平板の洗浄は、フロン及びトリクロロエタンの隙間浸透性や乾燥性に依存していた。ところが、1995年末で特定フロン、トリクロロエタンの生産が全廃され、水系、準水系、炭化水素系などの代替洗浄剤への代替が進められてきたが、当時、洗浄性と乾燥性の両方を満足させ、且つ、環境問題をクリアーする方法はなかった。
 筆者らは、これらの問題を解決する手段としてダイレクトバス洗浄方式を開発し、洗浄性と乾燥性の両方を満足させ、次工程への液持出量を大幅に削減し、循環再生装置との組合せで、環境問題をクリアーする洗浄システムを完成、既に100台を越える納入実績を得ている。
 今回の発表は、最新の導入事例として、HDD部品等の超精密洗浄技術と環境対策とコスト削減を可能にした事例について紹介する。

1.直通式「ダイレクトバス」洗浄装置

(1)機構

 荒川化学が開発した直通式洗浄装置「ダイレクトバス」の機構は、側面を通液しないように遮蔽し、底部に網を張った比較的小さな口径の筒状の洗浄容器に洗浄物を充填して、ポンプ吐出液を洗浄物の隙間に強制的に直接通液させ、再びタンクに戻し、循環する仕組みである。これによりポンプ吐出エネルギーを散逸させることなく、非常に効率的に洗浄物へ与える事ができる。
 また、ダイレクトバス洗浄装置では、ポンプからの流量が一定であるとき、洗浄バスケット内の洗浄物が密集しているほど、通液できる面積が少なくなり、流速が大きくなる。流速が増幅された液流は、単純な液流である層流から複雑な液流である乱流に変化する。この乱流が汚れに対する洗浄液の溶解性に加えて汚れを引き剥がす物理的な力として作用し、洗浄力を格段に増幅することができる。

(2)隙間の液流速度試算

 ここで、「ダイレクトバス」洗浄装置の特徴である隙間洗浄性について検討してみました。モデル図として、(図−1)のようにフリップチップが1枚入っているバスケット内の液流を求めてみました。
 但し、計算を簡略化するために、以下の条件を用いました。
 ・ △Pa=△Pb
 ・各変数は以下の通りとする
ポンプ流量;W、チップ隙間流速;Vb、隙間以外の流速;Va
チップ隙間圧力損失;△Pb、
隙間以外の圧力損失;△Pa
バスケット半径;r、摩擦係数;f、
管の長さ;L、
断面が円形でない隙間の相当直径;Db

 ・隙間以外の流速の計算
ポンプから送られる液の大部分が隙間以外の部分に流れることにより
 Va=W/πr2                         …@

・圧力損失△Paの計算
隙間以外の部分では流速が速く、乱流となっているので、ファニングの式を適応すると
 △Pa=2f×(Va2×gc)×(L/2r)ρ             …(ファニングの式)

・隙間の圧力損失△Pbの計算
フリップチップ隙間のように、極狭い隙間では、流れが層流になっているので、ポアズイユの式を適応すると
 △Pb=(32μ×Vb×L)/(gc×Db2)             …(ポアズイユの式)

・△Pa=△Pbより隙間の流速Vbの計算
 △Pa=△Pbなので、
 2f×(Va2/gc)×(L/2r)ρ=(32μ×Vb×L)/(gc×Db2)
従って流速Vbは
 Vb=Db2×Va2×f×ρ/(32μ×r)
@式を代入し
 Vb=Db2×W2×f×ρ/(32π2μ×r5)          …A
A式より、隙間の流速は、バスケット半径の5乗に反比例する。これによりバスケット半径が小さくなると、隙間の流速も上がるという事がわかる。
 この理論を実際の洗浄システムに応用するには、バスケット大きさを極力小さくする、もしくは部品をバスケット内に大量に詰め込んだり、専用の治具を用いて通液できる面積を減らすなどの方法を実行する事により、流速が上がり、短時間で隙間洗浄が可能なダイレクトバスの効果が発揮できる。
チップ以外の断面(相当直径) φ150 φ106 φ75 φ47.4 φ8.0
チップ以外流速(p/sec) 33 66 132 330 11470
チップ隙間流速(p/sec) 0.000815 0.00419 0.0218 0.1876 985〜1798
チップ内液通過時間(sec) 1227 239 46 5.3 0.0056〜0.01
チップ上下差圧(kg/cm28.2×10-7 0.4×10-62.2×10-51.9×10-4 1

(3) 直通式洗浄装置「ダイレクトバス」の特徴

@隙間洗浄性に非常に優れている。

 ダイレクトバスの最大の特徴が隙間洗浄性である。これは治具などを用いて、バスケット内にワークを密集させて詰め込み、ポンプから送られてくる液の通る隙間を極力減らす様な構造を持つため、わずか50μmの隙間にも通液し洗浄が可能となる。

A液切り、乾燥性に優れている。

 ダイレクトバスは、ブロワーから高速で大量の空気をワークに与える事が可能である。このため洗浄の時と同様の理由から、短時間で、ワークの液切り、乾燥が可能である。
 送風で十分な液切りを行ない、部品表面が薄く濡れた状態になってから、熱風の乾燥を行っているため、乾燥染み(ウォーターマーク)の発生も防ぐことができる。また水系洗浄において、最も時間のかかる乾燥時間が短時間で済むため、以前のように、大型の乾燥機を設置したり、揮発性の良いIPA、HFCなどにわざわざ置換する必要がない。

B高い生産能力

 ダイレクトバス洗浄装置は、従来の洗浄機とは全く逆の発想の装置である。大量のワークをバスケットに詰め込む程、短時間で処理できるため、単位時間当たりの生産能力は、シャワー洗浄や超音波洗浄の5〜10倍が可能である。

C低ランニングコスト

 ダイレクトバス洗浄装置は完全密閉構造のため、シャワー洗浄機のように装置内のミストがほとんど発生しないだけでなく、液切り性が優れているため、液の持ち出し量が非常に少なく、ランニングコストの大部分を占める新液補充量が少なく、シャワー洗浄機の1/10〜1/20程度になる。

D液管理が容易

 ダイレクトバス洗浄装置の洗浄液、リンス液などの各タンクはオーバーフローの連続方式ではなく、各槽が独立しており、各槽にそれぞれ管理値と管理計を設けているため、液管理が容易で、トラブル等の発生を未然に防ぐ事が可能である。また全量濾過フィルターの設置により、バーディクル類を完全除去できるため、再付着を防止することができる。

E応用技術

 ボールペアリングのようにバスケット内で充填密度が高くなる部品などに対しては、アップフロー(上昇流)対応型洗浄装置がある。これはラインを切り替え、アップフローにより、部品を浮かせ、位置を変化させることで、部品どうしの接点部分に付着した汚れも除去することが可能である。
(注)この情報は、1999年12月13日に「シャープ・エルムホール」で行われた「第7回JICC洗浄技術セミナー」資料より一部転載したものです。セミナー資料は、当協議会事務局で保管しております。