超純水および機能水について

栗田工業株式会社 森田博志

半導体製造工程のおよそ1/5〜1/3を占めるウェットプロセスで、超純水はリンス用水として、また薬液の希釈用水として活用されている。さらに近年、特定のガス成分を溶解させた超純水(ガス溶解機能水)が、ウェハやガラス基板表面の洗浄に役立つことが分かってきた。

1.超純水製造

 水質要求レベルの向上に応じて、超純水製造処理フローは変遷を重ねて今日の姿に至った。現在、@前処理システムA一次純水システムBサブシステムC末端配管システムD排水回収システムの組み合わせで、理論純水に近い超純水が作られている。

2.分析技術

 超純水の評価項目としては、従来の管理指標となっていた比抵抗に加え、微粒子、TOC(全有機炭素)、金属、イオン、シリカ、溶存酸素などがある。これらは、現地でリアルタイムに計測できるモニターと、専用の分析室で精密に行う、採取資料の持ち帰り分析によって分析・管理されている。最新技術としては、専用フィルターによる試料水の精密ろ過と、走査型電子顕微鏡による捕捉粒子観察計数を組み合わせて実現した、微粒子測定があげられる。

3.ウェット洗浄プロセス

 過酸化水素をベースに、アルカリや酸を加えた濃厚薬液を高温で使うRCA洗浄と呼ばれる洗浄プロセスが、およそ30年にわたって世界中で使われてきた。現在、薬液を希釈して、温度も下げ、洗浄効果を落とさないよう超音波等の物理力を併用する、改良型のRCA洗浄が主流になりつつある。これに加え、ほとんど薬品を使わない簡便な洗浄の開発も進んでいる。ここで活用されるものが、洗浄用の機能水である。

4.機能水洗浄技術

 現在までに実用化された洗浄用機能水としては、水素水とオゾン水がある。

4.1 水素水

 原水である超純水に適当な処理を施すことで、飽和濃度(室温大気圧下で約1.6ppm)付近の水素水が精度よく作れる。水素水は単独では特別な洗浄力を示すことは無いが、超音波照射を併用することで際だった微粒子除去効果を発揮する洗浄水となる。超音波照射で分解した水分子由来のOHラジカルとHラジカルのうち、OHラジカルが溶存水素と反応するために生じる、余剰Hラジカルが役立っていると推定できた。再結合すべきOHラジカルを失ったHラジカルが、効果的に基板や微粒子の表面に作用し脱離を促す、と考えられる。

4.2 オゾン水

 非常に強い酸化力を持つオゾン水は、有機物や一部の金属を酸化して溶解・除去する効果を発揮することが知られている。溶存オゾン濃度の維持が困難なことがオゾン水実用化進展を妨げていた。これに対し近年、所定濃度のオゾン水を100m以上先まで届けられる、画期的な溶解・送水技術が開発された。これにより1台のオゾン水製造システムから、工場中の洗浄機までオゾン水を供給できるようになった。既に国内の最新電子デバイス工場の量産ラインで3年あまり稼働している。

 オゾン水と水素水を組み合わせ、さらにフッ酸系の薬液をほんの少し用いることで、従来のRCA洗浄に匹敵する総合的な洗浄ができるようになった。機能水洗浄技術は、今後の電子産業がさらに発展していくために、重要な役割を担うものと考えている。



超音波洗浄と脱気

三浦工業(株)白石仁士

 水、炭化水素系溶剤などを用いた超音波洗浄において、錆の防止や洗浄力の強化のために液中の溶存気体を除去する真空脱気装置を導入する事例が増加してきており、本講演では、水および炭化水素系溶剤を用いた超音波洗浄に及ぼす脱気の影響について述べた。

 まず、脱気の基本法則に関して、液中の気体の溶解特性はへンリー則にしたがい、酸素、窒素などの大気中の成分が液中に溶解する。常温の水の溶存気体量は液量の約2容量%存在し、炭化水素系の溶剤は、たとえば灯油では約14容量%と水に対する溶解量のおよそ7倍も多く気体を溶解している。

 次に、超音波の基本的な伝播特性に関して述べた。洗浄槽の底面に設置された超音波振動子から発せられた超音波は液中を伝わり液面で反射されて再び液中に戻る。音速が一定という条件で振動子と水面までの深さがその半波長の整数倍であれば超音波が増幅されて定在波が形成される。その圧力を示す定在波曲線における腹の部分では、減圧と加圧が繰り返されるが、減圧の時に微細な気泡が発生し、一旦発生した気泡中の蒸気が加圧段階で凝縮し急激に体積を減少させ、周囲の液体が泡の中心部分に突進し互いに衝突する時に発生する大きな速度変化により衝撃波ができる現象が超音波におけるキャビテーションである。非脱気では、その発生気泡中に非凝縮性気体の比率が高くそれが気泡内に最後まで残りゴム球のように振動を吸収して超音波を弱め、同時に音の伝播速度(音速)も遅くする。

 実際に、液中の音圧レベルを実測し脱気と超音波強度の関係について検証した所、水中の超音波の音圧レベルは、非脱気水では水面に向かうにしたがい著しく減少するが、脱気水では水面近傍での音圧レベルの低下が少ない。また音圧レベルも上昇し超音波の距離減衰の効果だけでなくキヤビテーションの強化の効果も明らかになった。

 また、水と溶剤について同じ装置を使い、異なる超音波周波数(23、46kH)、同一位置で脱気レベルを変えて音圧レベルを比較計測した。非脱気条件では、高周波の方が音圧レベルは低く、水と溶剤の比較では溶剤が数10dBも音圧レベルが低い。脱気条件では、水、溶剤ともに脱気が進むに従い音圧レベルは上昇する。さらに脱気を進めて溶存酸素濃度0mg/1付近になると水と溶剤の音圧レベルの差は数dBにまで接近し、完全に脱気すれば超音波強度はほぼ同じ音圧レベルに収束する傾向を示した。従来、溶剤の超音波強度は弱いと言われているが、それは多分に溶存気体濃度が7倍近くも多く溶存していることが影響していることは明らかで、完全脱気により水に近い超音波強度が溶剤でも得られることを示した。

 その他、脱気装置に関して、溶存酸素濃度0.5mg/1程度のボイラ給水用、ビル配管の赤水防止用の一般脱気レベルの用途の紹介、半導体用ウェハ洗浄用や高圧ボイラ給水などで溶存酸素濃度として1ppb以下を得る超脱気レベル脱気原理などについて紹介した。

 



環境問題から見た工業洗浄剤の使用実態と今後の動向に関する調査

(株)旭リサーチセンター 新井 喜博

 環境問題への対応という視点で、工業洗浄剤の将来動向について全体像の把握を目指し、工業洗浄剤メーカー、洗浄装置メーカーなどからみた各工業洗浄剤の種類別に使用分野別、対象汚れ別の量的把握を試みた。その他、各洗浄剤の長短所、環境関連法規への関心度、洗浄剤使用の将来予測などをアンケート調査を元に分析し、取りまとめた。

 調査した項目は、1)工業洗浄剤(装置)の種類別、使用分野別、対象汚れ別の販売実績、特徴(長所・短所)、2)工業洗浄剤の全体販売額、種類別の販売量実績、3)注目する環境関連法規、4)各種工業洗浄剤の将来予測、であった。アンケート調査は2000年10月に実施、128社を対象に選び、79社という高い回答数(回答率61.7%)を得た。以下に調査分析結果の概要を示す。

1) 工業洗浄剤の販売量分析

・塩素系溶剤について

 最も多く販売したとされたのは塩素系溶剤であり過半数を占めた。使用分野は、金属加工部品が最も多い。対象汚れは、グリス・潤滑剤が最も多い。金属加工分野での比較的高粘度の油の洗浄に大量に用いられる。

・炭化水素系溶剤について

 次いで販売量が多いのが炭化水素系溶剤で、約18%を占めた。使用分野は、自動車用部品、電機・電子部品を中心である。対象汚れは、鉱物系加工油が半分以上を占めた。

・水系洗浄剤について

 水系洗浄剤の販売量は、約16%を占めた。使用分野は、金属加工部品、自動車用部品が中心である。対象汚れは、鉱物系加工油や水溶系加工油が多い。

・準水系洗浄剤について

 準水系洗浄剤の販売量は、約4%を占めた。使用分野は、電機・電子部品や樹脂加工部品が中心である。対象汚れは、離型剤、フラックス、鉱物系加工油が多い。

・フッ素系溶剤について

 フッ素系洗浄剤の販売量のほとんどがHCFC−225である。使用分野は、電機・電子部品、プリント基板・表面実装部品、精密加工部品分野が中心である。対象汚れは、フラックス、鉱物系加工油、グリス・潤滑剤である。

2) 洗浄装置で使用する洗浄剤種類・使用分野・対象汚れ・特徴

 洗浄装置の使用分野は、浸漬タイプの洗浄装置では、電機・電子部品、精密加工部品、ガラス・光学系部品などで多く利用される。噴射タイプの洗浄装置では、自動車部品などで利用される。蒸気タイプの洗浄装置では、電機・電子部品などで利用される。

3) 注目する環境関連法規

 最も注目する法規は、「労働安全衛生法」であった。その他注目度の高い法規は「化学物質管理促進法(PRTR法)」、「水質汚濁防止法・下水道法」、「環境基本法(環境基準)」、「廃棄物処理法」などであった。

4) 工業洗浄剤の将来予測

 水系洗浄剤、準水系洗浄剤、炭化水素系溶剤の販売量の将来予測は、それぞれその中の種類において意見が分かれる結果となった。

 塩素系溶剤販売量の将来予測は、減るというほぼ一致した意見である。

 フッ素系溶剤販売量の将来予測は、減るというほぼ一致した意見である。

(注)これらの情報は「第12回JICC洗浄技術セミナー」より講師のご好意で作成頂きました"要旨"です。