キャビテーション噴流式洗浄法

東北大学大学院工学研究科
機械知能工学専攻
助教授 祖山 均

キャビテーションは、一般には流体機械に致命的損傷を与える害悪であるが、逆転発想的研究により、キャビテーション気泡の崩壊衝撃力をキャビテーション噴流により制御して、洗浄に有効利用できる。超音波洗浄もキャビテーションを活用した洗浄方法である。しかしながら、超音波で発生するキャビテーションは、キャビテーション噴流で発生するキャビテーションに比べたら、はるかに「弱い」キャビテーションである。

キャビテーションとは、速度の増大に伴い、圧力が低下し、液体の飽和蒸気圧まで圧力が減少した結果、液体が気泡になる現象である。筆者は、水中に高圧水を噴射して、高圧水の噴流まわりにキャビテーションを発生させるキャビテーション噴流を洗浄に用いている。キャビテーション噴流では、キャビテーションの発生領域や衝撃力が、噴射圧力などのパラメータにより制御可能である。また同じ電力に対してキャビテーション噴流は、超音波振動子の数倍から数十倍の衝撃力や壊食を生じることができ、さらにキャビテーション噴流は容易に強力・大型化できるので、キャビテーション噴流の洗浄能力の方が、従来の超音波洗浄よりも桁違いに強力であると言える。

周知のように、金属や岩石などの切断に用いられているウォータージェット(気中水噴流)でも洗浄を行うことができる。しかしながら、キャビテーション噴流(水中水噴流)の方が、ウォータージェットよりも洗浄領域がはるかに広い。またキャビテーション噴流は、キャビテーション気泡の崩壊衝撃力を活用するので、数千気圧のプランジャポンプを用いてウォータージェットで行うような洗浄を、キャビテーション噴流では僅か数十MPaのポンプで行うことが可能である。

通常のウォータージェットでは、噴射圧力が衝撃力分布の主なパラメータであるが、キャビテーション噴流の場合には、多くのパラメータが存在するので、キャビテーション衝撃力を実測する必要がある。筆者らは、キャビテーション衝撃力計測装置を開発して市販化している。

キャビテーション噴流式洗浄をラインに導入する際には、高圧水噴射用ポンプや装置の諸元決定などが必要である。そこで筆者らは、キャビテーション噴流による洗浄を試行するためのキャビテーション噴流式洗浄装置を開発した。同装置は、種々のパラメータを変えて洗浄を行えるので、実際に大規模な洗浄機として具体化する場合に必要な諸元の決定ために利用である。

以上、キャビテーション噴流による洗浄について概説した。キャビテーション噴流を用いた洗浄では、超音波洗浄のキャビテーションよりも強力なキャビテーションを発生させて洗浄に活用するので、薬品等を用いることなく水だけで洗浄できる。本技術が環境に優しい技術として社会に貢献し、本報がその一助となることを祈念する。

(これは、「第13回洗浄技術セミナー(平成13年11月30日開催)」より、講師のご好意で
      作成頂きました“要旨”です。)

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