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環境保護情報

環境保護情報(2004年5/6月)

1. 平成14年度PRTRデータの概要

 環境省が毎年発表する「環境白書」の本年度版

(2004年度)は、さる5月28日に閣議決定され、国会提出を経て公表された1)。今回の環境白書は、第1回の公害白書から数えて第36回目となり、総説のテーマは「広がれ環境のわざと心」である。

 環境省の報道発表によると、今回の白書のテーマは、優れた環境技術や環境に配慮した事業形態などの「環境のわざ」と、環境を大切にし、敬う「環境の心」とを組み合わせることにより、環境と経済の好循環を生み出せることを説明するとしている。

 また、「環境のわざと心」を環境教育、国際環境協力等を通じて日本国内および世界へ広げていくことで、暮らしや社会経済活動に一層の発展をもたらす「環境革命」を実現し、地球環境の保全につなげることを訴えるものと説明している。

1.1 今年のテーマ「環境のわざと心」

 「環境のわざ」という新しい用語で、今年の環境白書は何を訴えようとしているのか?

 「環境のわざ」について、同書では、「環境に配慮するための方法や仕組み」のことであるとしている。すなわち、現在、社会の隅々で、環境保全を目的としたさまざまな工夫が行われており、技術開発を通じて環境配慮型製品や環境配慮の事業形態が生み出されているので、それらを総称してこの言葉が使われている(同書11ページ、以下同じ)。

 「環境の心」とは何を指すのか?

 日本人一人ひとりが暮らしの実践者であり、消費者、投資家、生活者として、「環境のわざ」を作り出す事業者を支え、導き、この両者が互いに支え合って初めて「環境のわざ」を活かすことができる。こうした行動をもたらす意識が「環境の心」であると同書は説明している(24ページ)。

 「環境革命」という言葉も目新しく、序章のタイトルに“序章 環境革命の時代へ”というように使われている。「環境革命」は、「産業革命」や「IT革命」に続くものとして、「環境の世紀」と言われる21世紀を定義づける名称として使われている。

これらを総合して、小池百合子環境大臣は、白書の冒頭に、以下の文章を記している。

 “日本には、世界に誇る「環境のわざ」があります。省エネルギー、リサイクル等の分野では、最高水準の技術が次々に開発され、消費者の選択に供されています。ソフトの分野では、環境報告書や金融分野での環境配慮など、さらに幅広い「環境のわざ」が広がっています。

 また、万葉の時代から自然を敬ってきた日本人間の心は、持続可能なライフスタイルを生み出す可能性を秘めています。環境を大切に思い、これを自らの手で保全しようとする「環境の心」を育むためにも、また、すべての世代を通じて自然とふれあう中で健やかな心身を保つためにも、環境教育、環境学習を進めていきたいと思います。

 一人ひとりが、消費者、投資家、事業者等のそれぞれの立場から環境を良くする意志を持って行動すれば、ものやお金の流れを変えることができます。環境を良くすることが経済を活性化させ、経済の活性化がさらに環境につながる。そんな好循環を生み出す必要ながあります。たとえば、環境省保全と、観光と地域振興を同時に追求するエコツーリズムは、このような環境と経済の好循環を目指した動きのひとつです。エコツーリズムの普及、定着のため、平成15年度11月から「エコツーリズム推進会議」を開催し、具体的な推進策を検討しています。

 環境と経済の好循環を日本で始められれば、同じ志を世界中の人々に広げ、これから生まれてくる世代とも、地球の恵みを受けた幸せな暮らしを分かち合うことができるでしょう。「環境のわざと心」を世界に広げることにより、地球環境の保全に大きく貢献することができます。平成16年度3月にアラブの環境大臣を日本に招待し、日本・アラブ環境大臣セミナーを開催したのも、そんな考えに基づくものです。

 「環境の世紀」と言われる21世紀は、これまで人類が経験してきた「産業革命」や「IT革命」に続く、いわば「環境革命」の時代であると考えます。環境を基軸として、私たちのライフスタイルや事業活動のあり方を根本から見直し、真の環境立国を目指そうではありませんか。環境という、人類共通のテーマのもとで、日本がリーダーとなって、世界中に持続可能な発展をもたらすことは、「環境のわざと心」を有するわが国の責務なのですから。

1.2 白書の構成

 環境白書は、環境基本法の第12条に基づいて作成され、前年度の“環境の状況及び政府が環境の保全に関して講じた施策に関する報告”(2003年度年次報告)と新年度における“前項の報告に係る環境の状況を考慮して講じようとする施策”(2004年度施策)とからなり、今年の白書の目次は表1のごとくである。

<表1>「2004年版環境白書」の構成

 

 

<参考文献>

1) 環境省編:「平成16年版 環境白書 = 広がれ環境のわざと心 =」㈱ぎょうせい (2004.5)

2) 関連ホームページ

・環境省 http://www.env.go.jp/

・白書情報 

http://www.env.go.jp/policy/hakusho/

index.html

・環のくらし〜地球温暖化防止をめざして

http://www.wanokurashi.ne.jp

・環境と経済の好循環ビジョン〜健やかで美しく

豊かな環境先進国へ向けて〜

http://www.env.go.jp/policy/report/h16-01

/index.Html

2. 主要塩素系溶剤統計

 当協議会の団体会員であるクロロカーボン衛生協会にご好意により、主要 塩素系溶剤の統計資料をご提供頂いたので表2にご紹介する。

 同資料は、4種類の 塩素系溶剤(トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、塩化メチレン)について、1986年から

2003年までの年間データと、2004年の1月〜3月期のデータが記載されている。


環境保護情報(2004年3/4月)

1. 平成14年度PRTRデータの概要

 平成14年度のPRTRデータの集計結果が、去る3月29日に、経済産業省および環境省から同時に公表された。この公表は、昨年度に次いで2回目のものであり、1999年7月に交付された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に基づくもので、届出を2003年4月1日〜6月30日に受け付け、届出対象外の排出量については国が推計して、全体のデータを併せて集計した結果がまとまったものである。 

以下にその集計結果のポイントを紹介する(注:それぞれの数値の後に第1回(2001年度)の集計結果の対応データを比較のために付記した)。

1.1 平成14年度排出量・移動量の集計結果の概要

(1) 概要

 今回届出のあった事業所総数は全国で34,517(34、830)事業所であった。

 事業所から届出のあった当該事業所からの排出量については、全国・全事業所・全物質の合計で290千トン(313千トン)、移動量については217千トン(216千トン)、排出量と移動量の合計で508千トン(529千トン)であった。

 また、国が推計を行った届出対象外の排出量(対象業種からの届出対象外の排出量、非対象業種からの排出量、家庭からの排出量、自動車などの移動体からの排出量)については、全国の合計で約589千トン(585千トン)であった。

(2) 全国の届出排出量・移動量の集計結果

全国の事業者から届出のあった聡排出量・移動量は508千トン(537千トン)であり、その内訳は以下の通りである(図1参照)。

総排出量:290千トン(314千トン)

・ 大気への排出: 256千トン、総排出・移動量比50%(281千トン、同52%)

・ 公共用水域への排出: 12千トン、2.4%(13千トン、同2%)

・ 事業所内の土壌への排出:0.3千トン、同0.06%(0.3千トン、同0.1%)

・事業所内の埋立処分: 22千トン、同4.4%(20千トン、同4%)

総移動量:217千トン(223千トン)

・事業所の外への廃棄物としての移動:214千トン、同42%(219千トン、同41%)

・下水道への移動:3千トン、同0.59%(4千トン、同1%)

(3) 届出排出量の上位10物質

 届出排出量上位10物質の詳細は、排出経路ごとに紹介されており、その一例として「大気への届出排出量」は以下のごとくである。

10物質合計231千トン、総届出排出量比90%(252千トン、同90%)

 ・トルエン:123千トン(132千トン)

 ・キシレン:47千トン(52千トン)

 ・塩化メチレン:25千トン(27千トン)

 ・エチルベンゼン:9.9千トン(9千トン)

 ・トリクロロエチレン:6.0千トン(6千トン)

 ・二硫化炭素:4.9千トン(7千トン)

 ・N,N-ジメチルホルムアミド:4.6千トン(6千トン)

 ・スチレン:4.1千トン(5千トン)

 ・塩化メチル:3.9千トン(4千トン)

 ・テトラクロロエチレン:2.3千トン(2.3千トン)

 下記のような届出排出量及び届出移動量についても上位10物質がリストアップされている(参考資料(2)を参照)。

・公共用水域への届出排出量

・事業所愛の土壌への届出排出量

・事業所内の埋立処分の届出排出量

・届出移動量

・事業所外への廃棄物としての届出移動量

・下水道への届出移動量

1.2 届出排出量・移動量上位物質からみた対象業種の特徴

届出排出量・移動量の合計上位5物質(トルエン、キシレン、塩化メチレン、マンガン及びその化合物、鉛及びその化合物)については、業種に係る特徴を示している。

 ここでは、その中から塩化メチレンの説明を以下に紹介する。

・塩化メチレン

塩化メチレンの届出排出量・移動量の合計は34千トン(全体の6.7%)で、このうち届出排出量の合計は25千トン(全体の8.7%)を占め、そのほぼ100%が大気への排出(全体の9.9%)となっている。

塩化メチレンの届出排出量・移動量の上位10業種は、化学工業(9.5千トン)、金属製品製造業(4.4千トン)、輸送用機械器具製造業(4.2千トン)、プラスチック製品製造業(3.4千トン)、電気機械器具製造業(2.5千トン)、木材・木製品製造業(1.9千トン)、その他の製造業(1.7千トン)、一般機械器具製造業(1.0千トン)、非鉄金属製造業(0.93千トン)、ゴム製品製造業(0.90千トン)の順となり、

その合計は30千トンであり、塩化メチレンの届出排出量・移動量の合計の90%に当たる。

1.3 業種別の届出排出量・移動量の集計結果

業種別の届出排出量・移動量の集計結果は、45業種について、主な状況が説明されている。その中の“金属製品製造業”については、表1に基づいて、以下のように述べられている。(表1参照)

届出排出量・移動量の上位物質はトルエン(当該業種内比24%)、キシレン(同19%)、塩化メチレン(同17%)、トリクロロエチレン(同13%)、亜鉛の水溶性化合物(同7.9%)の順で、これら5物質の届出排出量・移動量の合計は21千トンであり、この業種の届出排出量・移動量全体の80%に当たり。排出量と移動量の比率は、排出量が77%、移動量が23%となっている。

 トルエン、キシレンは主に部品や製品を塗装する塗料の溶剤として、塩化メチレンやトリクロロエチレンは部品の洗浄剤として、亜鉛の水溶性化合物は金属表面の防錆剤(メッキなど)として使用されている。

1.4 全国の届出外排出量の集計結果

届出外排出量については、その推計方法、データの限界などについて注釈が加えられているが、その集計結果から主なデータを以下に紹介する。

(1) 届出外排出量の構成

全国の届出外排出量の合計は589千トン(585千トン)であり内訳は以下の通りである(図2)。

① 対象業種からの届出外排出量:251千トン、構成比43%(322千トン、構成比55%)

対象業種に属する事業を営む事業者の事業活動に伴って環境に排出されていると見込まれる量

② 非対象業種からの届出外排出量:123千トン、構成比21%(105千トン、構成比18%)

対象業種以外の業種に属する事業のみを営む事業者の事業活動に伴って環境に排出されていると見込まれる量(移動体からのものを除く)

③ 家庭からの届出外排出量:62千トン、構成比10%(69千トン、構成比12%)

家庭から環境に排出されていると見込まれる量(移動体からのものを除く)

④ 移動体からの届出外排出量:154千トン、構成比26%(88千トン、構成比15%)

移動体から環境に排出されていると見込まれる量

届出外排出量の合計589千トンのうち、上位10物質の合計は445千トンで、76%に当たる(図2)。

 上位10物質は、溶剤・合成原料に用いられるほか、自動車などの排ガス、接着剤・塗料などに含まれる①トルエン:158千トン及び②キシレン:122千トン、溶剤などに用いられる③エチルベンゼン:30千トン、自動車などの排出ガスに含まれるほか、合成原料・消毒剤などに用いられる④ホルムアルデヒド:29千トン、洗浄剤・化粧品などに用いられる⑤ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル:21千トン、洗浄剤などの界面活性剤に用いられる⑥直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸塩:20千トン、防虫剤・消臭剤に用いられる⑦p-ジクロロベンゼン:18千トン、自動車などの排出ガスなどに含まれる⑧ベンゼン:17千トン、金属洗浄などに用いられる⑨塩化メチレン:17千トン、自動車などの排ガスにふくまれるほか、合成原料などに用いられる⑩1,3,5-トリメチルベンゼン:13千トンの順になっている。

(2) 対象業種からの届出外排出量

対象業種からの届出外排出量の合計は251千トンであr、このうち上位10物質の合計は220千トンで、88%に当たる。

 上位物質は(図3)、溶剤・合成原料などに用いられる①トルエン:100千トン、溶剤・合成原料に用いられる②キシレン:50千トン、金属洗浄などに用いられる③塩化メチレン:17千トン、溶剤・洗浄剤・合成原料などに用いられる④トリクロロエチレン:13千トン、溶剤などに用いられる⑤エチルベンゼン:12千トンなどとなっている。

1.5 届出排出量と届出外排出量の合計

届出排出量と届出外排出量の合計は880千トン(898千トン)であり、このうち届出排出量は290千トン、構成比33%(314千トン、同35%)、また届出外排出量は、対象業種251千トン、同29%(322千トン、36%)、非対象業種123千トン、同14%、(105千トン、12%)家庭62千トン、同7.0%(69千トン、8%)、移動体154千トン、同17%(88千トン、10%)を併せた589千トン、同67%(585千トン、65%)となっている。

届出排出量と届出外排出量の合計880千トン(898千トン)のうち、上位10物質の合計は659千トン(647千トン)で、75%72%)に当たる。

 上位10物質は(図4)、

① トルエン:281千トン(221千トン)(自動車などの排ガス、接着剤・塗料などに含まれる)

② キシレン:169千トン(111千トン)((同上)

③ 塩化メチレン:43千トン(84千トン)(金属洗浄などに用いられる)

④ エチルベンゼン:40千トン(溶剤などに用いられる)

⑤ ホルムアルデヒド:29千トン(28千トン)(自動車などの排出ガスに含まれるほか、合成原料・消毒剤などに用いられる)

⑥ ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル:21千トン(洗浄剤・化粧品などに用いられる)

⑦ 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩:20千トン(33千トン)(洗浄剤などの界面活性剤に用いられる)

⑧ ベンゼン:19千トン(自動車などの排出ガスなどに含まれる)

⑨ トリクロロエチレン:19千トン(59千トン)(溶剤・洗浄剤・合成原料などに用いられる)

⑩ p-ジクロロベンゼン:18千トン(20千トン)(防虫剤・消臭剤に用いられる)

1.5 届出外排出量の推計について

政府は、化学物質排出把握管理促進法に基づいて、届出対象外の排出量について推計しており、そのデータの一部を前述のように紹介した。推計方法については、以下のような補足説明がある。

・ 多くの発生源区分で推計方法を改善している段階で、推計方法が安定するまでの間は、年度毎の推計結果を単純に比較することはできない。

・ 届出外排出量の発生源区分は、第1回では18分類24項目であったが、第2回では21分類、34項目に増えている。

・ 推計方法の変更点について、21の分類ごとに説明が付されている。

1.6 その他

今回の報告書(参考資料2)には、その他に、以下の項目のデータと集計結果が付されている。

・ 業種別の届出事業所数・排出量・移動量(データと集計結果)

・ 都道府県別の届出事業所数・排出量・移動 量(データと集計結果)

・ 都道府県別の届出排出量及び届出外排出 量(データ)

・ 全国の届出排出量・移動量(集計表)

・ 全国の業種別の届出排出量・移動量(集計表)

・ 都道府県別の届出排出量・移動量(集計表)

・ 全国の届出外排出量(集計表)

・ 全国の移動体からの届出外排出量(集計表)

<参考資料>

1) 経済産業省:「(プレス発表)平成14年度PRTRデータの公表等について - 化学物質の排出量・移動量の集計結果の概要等 -」(2004.3.29)

2) 経済産業省製造産業局化学物質管理課・環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課「平成14年度PRTRデータの概要 - 化学物質の排出量・移動量の集計結果 -」(2003.3)

3) 公表資料は、以下のホームページに掲載されている

経済産業省

http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/index.html

環境省

http://www.env.go.jp/chemi/prtr/risk0.html

4) 経済産業省・環境省:「PRTR排出量等算出マニュアル(第3版):第Ⅰ部基本編」(2004.1)

5) 経済産業省・環境省:「PRTR排出量等算出マニュアル(第3版):第Ⅱ部解説編」(2004.1)

6) 経済産業省・環境省:「PRTR排出量等算出マニュアル(第3版):第Ⅲ部資料編」(2004.1)

7) 経済産業省・環境省:「PRTR事業者説明会資料集」(2004.2)


環境保護情報(2004年1/2月)

1. 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制についての検討

環境省は、VOC規制に関する検討を、「VOC排出抑制検討会」において2003年9月から開始した(「2003年9-10月号」の本情報を参照)。同検討会は、昨年12月9日の第5回会合で、それまでの議論を集約した答申案“揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制のあり方について(意見具申案)”を採択した。

 その間の議論では、包括的な法規制が必要であるとの意見と、従来から産業界で行われている自主管理の成果を評価して、自主的取組に任せるべきであるとの意見が対立した。この2つの立場を尊重して、法規制と自主的取組を組み合わせたらどうかという折衷案が提出され、3つ排出抑制の方法について表1のごとく論点が整理された。

 「中央環境審議会第12回大気環境部会」では、この表の“C.法規制と自主的取組の組合せ”について、配布資料で、以下のような説明を行っている。

・ これまでに事業者が行ってきた有害大気汚染物質の排出削減に係る自主的取組は、数多くの企業の参加により、利用し得る対策に応じた柔軟な排出削減対策が促進されたこと、全国レベルでは環境濃度の低減が見られたことといった点で大きな成果を挙げたと評価できることから、これを尊重して、VOCの排出削減においても自主的取組を促進することが適当。

・ VOCについては、排出施設、排出事業者の事業の実態等が多様であるため、自主的取組を促進し、事業の実態を踏まえた事業者の創意工夫と自発性が最大限発揮されるようにすることにより、結果的により効果的な排出抑制を実現することとなる。

・ このような観点に立って、事業者には自主的取組を進めていただきつつ、法規制は基本的シビルミニマムのものとなるように抑制的に適用する、との組合せも、今日的なありようとして考えられる。

・ 規制対象以外からのVOCの排出については、事業者の自主的取組による創意工夫を尊重して、それぞれの事業所ごとに最適と判断される方法でVOCの排出抑制につとめていただき、これにより、費用対効果が高く、柔軟な方法で排出削減を行うことが可能となる。

・ 一方、一施設当たりのVOCの排出量の多い、規模の大きな施設は、地域環境への負荷も大きいことから、法規制で排出抑制を進める。したがって、法規制の対象施設は、地域における排出量の削減が特に求められる施設、すなわち、VOC排出量の多い主要な施設のみに限定し、排出施設を網羅的に規制の対象とすることはしない。

・ この手法は、法規制と自主的取組を適切に組み合わせることにより結果として最良の効果が得られるよう、事業者と行政の双方が努力をすることをねらったものである。

・ このような法規制と自主的取組のパッケージにより、当部会が想定している目標年次(2010年度)までに、我が国全体の固定発生源から排出されるVOC排出量の削減目標(3割程度)を達成することとする。

・ 将来、仮に、削減目標に照らして、VOCの排出削減が十分でない事態が生じた場合には、取組状況をレビューし、法規制と自主的取組の組合せの仕方を見直すことで対応する。

<参考資料>

環境省: 「VOC排出抑制検討会第5回会合・配布資料」(2003.12.9)

環境省: 「中央環境審議会第12回大気環境部会・配布資料」(2004.1.26)

2. 「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制のあり方について(意見具申案)」

前述のような議論を経て、この意見具申案は、2004年2月3日に開催された「中央環境審議会第13回大気環境部会」において、審議の上採択された。同文書は、委員長の裁量により若干の修文が行われるが、本筋は変わらず、今後の大気汚染防止法改正の根拠として参考とされることになる。以下にその全文を紹介する。

(1) はじめに

揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制については、当審議会は、従来より「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」(第7次答申)などにおいて、自動車を含めた全ての移動発生源、工場・事業場等の固定発生源、各種自然発生源等から排出される炭化水素等が浮遊粒子状物質、光化学オキシダント等の二次生成に及ぼす寄与の把握の必要性等を指摘してきたところである。

このような状況の中、平成15年9月17日に開催された第9回大気環境部会において、事務局を務める環境省に対し、固定発生源からのVOCの排出抑制について、有識者の意見を聞きつつ早急に検討を深めるよう指示がなされた。これを受けて、揮発性有機化合物(VOC)排出抑制検討会(以下「VOC検討会)において、専門的な観点から検討が行われ、その検討結果は、同年12月16日の第10回大気環境部会に報告された。

この報告を踏まえ、大気環境部会は、固定発生源からのVOCの排出抑制の方法を中心として議論を重ね、今般以下のとおり結論を得たので、環境大臣に意見具申をするものである。

(2) 背景

近年の我が国の大気汚染状況については、浮遊粒子状物質に係る環境基準の達成率が低く、依然として厳しい状況が続いている。特に大都市圏における浮遊粒子状物質に係る環境基準の達成率は、全国平均と比べて更に低い状況となっている。

光化学オキシダントについても、昼間の日最高1時間値の年平均値は近年漸増の傾向であり、改善が見られない状況である。大都市に限らず都市周辺部での光化学オキシダント濃度が0.12ppm以上となる日数も多くなっており、光化学大気汚染の特徴である広域的な汚染傾向が認められる。また、光化学オキシダント注意報が、ここ数年は、毎年二十数都府県で年間延べ200日ほど発令されており、これは昭和50年代初期と同様の高いレベルである。平成14年には、千葉県で18年ぶりに光化学オキシダント警報も発令されている。

このような状況を踏まえ、浮遊粒子状物質の対策としては、自動車排出ガス単体規制の強化や低公害車の普及促進措置を実施してきたところである。さらに、平成13年の改正により粒子状物質対策が位置づけられた自動車NOx・PM法が成立し、車種規制等が実施されるとともに、大気環境部会の審議を経た上で、総量削減基本方針が閣議決定された。同基本方針においては、平成22年度までに粒子状物質対策地域において浮遊粒子状物質に係る環境基準をおおむね達成するという目標が設定されている。したがって、これを確実に実現することが、大気汚染防止行政に課せられた最重要の課題である。

光化学オキシダントの対策としては、固定発生源からの窒素酸化物排出規制、移動発生源の窒素酸化物及び炭化水素の規制を実施してきたところである。しかし、光化学オキシダント注意報等がしばしば発令されており、これを一定程度改善することが当面の課題となっている。

(3) VOCの排出抑制の必要性

浮遊粒子状物質や光化学オキシダントに係る大気汚染の状況はいまだ深刻であり、現在でも、浮遊粒子状物質による人の健康への影響が懸念され、光化学オキシダントによる健康被害が数多く届出されていることを考えれば、これに緊急に対処することが必要となっている。

(自動車排出ガスに関する説明は省略)

また、VOCが浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの生成に及ぼす影響やVOCの排出インベントリーなど大気環境部会に示されたVOCに係る科学的知見については、最新の研究成果や統計等を用いた現時点では最善のものであり、現段階ではこれらを考慮して排出抑制対策を講ずるのが適当である。

さらに、固定発生源からのVOCの排出については、欧米各国、韓国、台湾においてもオゾン対策(光化学オキシダントの大部分はオゾン)の観点から対応をとっていることも考慮する必要がある。

以上のことを踏まえると、我が国においても、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因となるVOCのうち固定発生源に起因するものについて、包括的に排出の抑制を図っていくことが必要であり、かつ、緊急の課題となっている。

(4) VOCの排出抑制の目標と時期

VOCから浮遊粒子状物質や光化学オキシダントが生成される過程には、多くの化学反応や環境中の条件が関与するため、VOCとこれらの生成物との関係を定量的に把握する場合には、一定の不確実性が内在することは避けられないが、今回の検討においては、現時点で科学的に最善のシミュレーション・モデルを用いてVOCの排出量削減効果を算定した。

これによると、浮遊粒子状物質の汚染の改善効果は、VOCの排出量を3割程度削減した場合、自動車NOx・PM法対策地域における浮遊粒子状物質の環境基準の達成率が約93%に改善すると見込まれている。

また、同様に、光化学オキシダントの汚染の改善効果についても、VOCの排出量を3割程度削減すれば、光化学オキシダント注意報発令レベルを超えない測定局数の割合は約9割まで上昇すると見込まれる。

このように、VOCの排出総量を3割程度削減すれば、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントによる大気汚染が相当程度改善すると評価できることから、固定発生源から排出されるVOCの削減については、現状(平成12年度)の排出量から3割程度削減することが一つの目標と考えられる。

上記の目標の達成期限については、自動車NOx・PM法基本方針に定める浮遊粒子状物質の環境基準のおおむね達成という目標を勘案して、平成22年度を目途とするのが適当である。

(5) VOCの排出抑制制度

(5-1) 法規制と自主的取組を組み合わせた対策手法の位置づけ

大気環境部会においては、固定発生源から排出されるVOCを、(4)で述べた目標年度までに目標量の削減を図るための政策手法として法規制と自主的取組の双方に関し,それぞれの有効性や実績について議論が重ねられたところである。

すなわち、法規制については、一定の制度の下で確実、かつ、公平に排出削減が行われることになり、現にばい煙や自動車排出ガスの対策として排出削減の効果を示している。他方、自主的取組は、事業者の創意工夫に基づき柔軟な対応が可能であり、費用対効果が高いと指摘されており、多様な物質及び排出源の対策が必要となる有害大気汚染物質の排出削減に実績をあげてきたところである。

これらの経験や特性、固定発生源からのVOCの排出の態様を踏まえると、VOCの排出抑制に当たっては、法規制か自主的取組かの二者択一的な考え方ではなく、これらの手法のそれぞれの特性を活用し、より効果的な手法を構築することが適切であると考えられる。

このような政策手法の選択の問題については、環境基本法第15条に基づき定められた環境基本計画において「政策のベスト・ミックス(最適な組合せ)の観点からそれら(各種の政策手段)を適切に組み合わせて政策パッケージを形成し、相乗的な効果を発揮させる」と、各種の政策手法を組み合わせる方法が位置づけられている。この観点に立って、固定発生源からのVOCの排出抑制については、法規制と自主的取組の双方の政策手法を適切に組み合わせること(ベスト・ミックス)により、より効果的な排出抑制の取組を進めることが必要である。

(5-2) 法規制と自主的取組を組み合わせた対策手法の考え方

これまでに事業者が行ってきた有害大気汚染物質の排出削減に係る自主的取組では、数多くの企業の参加のもと、事業所ごと、あるいは企業ごとに様々な対策を有機的に組み合わせることにより、事業活動と整合した費用対効果の高い対策が実施された結果、排出量の削減とそれに伴う環境濃度の低減が図られている。

VOCは、これまでの有害大気汚染物質の自主的取組に比べると、物質数が格段に多く、発生源の業種、業態も一層多様であり、また、浮遊粒子状物質による健康被害の懸念や光化学オキシダントによる健康被害の訴えの状況など、有害大気汚染物質とは異なる事情にあるものの、VOCから浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの生成については4.で述べたように不確実性が避けられないことも考慮して、これまでの自主的取組のノウハウを活用し、事業の実態を踏まえた事業者の創意工夫と自発性が最大限発揮される自主的取組により効果的な排出抑制を図ることが重視されるべきである。

従って、VOCの排出抑制に当たっては、これまでの自主的取組の結果を最大限に尊重して、自主的取組を評価し、促進することを第一とするという基本的な立場に立ち、法規制は基本的シビルミニマムとなるように抑制的に適用する、といった従来の公害対策にない新しい考え方に基づいて法規制と自主的取組を組み合せることが適当である。

これにより、規制対象以外からのVOCの排出については、事業者の自主的取組による創意工夫を尊重して、事業者がそれぞれの事業所ごとに最適と判断される方法でVOCの排出抑制に努めることになり、費用対効果が高く、柔軟な方法で排出削減を行うことが可能となると考えられる。

一方、一施設当たりのVOCの排出量が多く、大気環境への影響も大きい施設は、社会的責任も重いことから、法規制で排出抑制を進めるのが適当である。したがって、法規制の対象施設は、地域における排出量の削減が特に求められる施設、すなわち、シビルミニマムの観点から以下の6つの施設類型を念頭に置いて、VOC排出量の多い主要な施設のみに限定し、排出施設を網羅的に規制の対象とすることのないようにすべきである。

 ①塗装施設及び塗装後の乾燥・焼付施設

 ②化学製品製造における乾燥施設

 ③工業用洗浄施設及び洗浄後の乾燥施設

 ④印刷施設及び印刷後の乾燥・焼付施設

 ⑤VOCの貯蔵施設

 ⑥接着剤使用施設及び使用後の乾燥・焼付施設

この手法は、法規制と自主的取組を適切に組み合わせることにより結果として最良の効果が得られるよう、事業者と行政の双方の努力が相まって効果を発揮することをねらったものである。

このような法規制と自主的取組のベスト・ミックスのパッケージにより、(4)で述べたように、目標年次である平成22年度までに、我が国全体の固定発生源から排出されるVOC排出量を平成12年度に比して3割程度削減することを目標とする。

なお、将来、仮に、削減目標に照らしてVOCの排出削減が十分でない事態が生じた場合には、取組状況をレヴューし、法規制と自主的取組の組合せの仕方を見直すことで対応すべきである。

(5-3) 自主的取組による対策

自主的取組の進め方については、有害大気汚染物質の排出削減に係る自主管理のような統一的な仕組みもあり得るが、(5-2)の考え方に基づいてVOCの排出抑制を図る場合は、自主的取組の進捗状況を勘案して最終的には法規制で担保されるということになるので、事業者がそれぞれの事情に応じて取り組むという柔軟な方式でも排出抑制は進展すると考えられる。なお、自主的取組のあり方については、今後、事業所、企業、業界団体等の最もふさわしい主体ごとに、適切な方法を検討し、確立することが期待される。この場合、いずれにしても情報の公開や検証の仕組みを内在させることが求められるが、その具体的方法や実施の時期は、それぞれの事業者等の実情に応じて適切に運用されることが望ましい。

行政においては、事業者の自主的取組を推進する立場から、JIS等の規格やグリーン調達に低VOC製品を位置づけたり、環境ラベルを活用するなど推奨的な施策を実施すべきであるが、その効果的な方法については、自主的な取組を行う事業者の意見を聴いた上で検討を深めていくことが必要である。

(5-4) 法規制による対策

(5-2)で述べたように、VOCの排出量が多く、大気環境への影響も大きい施設に対して、排出口における排出濃度規制を適用するとともに、施設の設置を自治体に届け出る制度を設けるために、所要の法整備を図るべきである。この際、VOC検討会で深められた検討内容に留意し、制度を構築すべきである。

また、ここでいう法規制は、自主的取組を最大限に尊重した上での限定的な法規制であることを踏まえ、規制対象施設を定めるに当たっては、法規制を中心にVOCの排出抑制を図っている欧米等の対象施設に比して相当程度大規模な施設を対象とすることが適当である。

(5-5) 実施に当たっての留意事項

法規制と自主的取組のベスト・ミックスの制度においては、法規制と自主的取組との密接な連携により相乗的な効果を発揮させることが必要であるため、法規制の対象施設排出濃度基準やその適用の時期等を定める際には、それぞれの事業の実態や自主的取組の内容を熟知する者の参画を得た上で、十分な検討を経ることが不可欠である。

この場合、自主的取組を評価し、促進するとともに、シビルミニマムの法規制を行うという観点から、規制対象施設、排出濃度基準、規制の実施時期、新設・既設の別等の規制の具体的内容を定めるに当たっては、事業者の自主的取組の状況や事業の実態に十分に配慮して弾力的な対応が可能となるよう留意すべきである。

また、具体的なVOC排出抑制対策を行う事業者において、どのような措置が最も自らの事業に適しているかを十分に検討し、準備するための期間を確保することが必要である。

法規制の適用に当たっては、VOCの排出抑制対策を実施するために、施設の種類によっては施設等の大幅な改変が必要な場合など技術的な制約もあり得ることから、既設の施設に対しては、施設の種類に応じ段階的な対応とすることも検討すべきである。

(6) 今後の課題

より効果的なVOCの排出抑制対策を講じていくためには、自主的取組の状況、法規制の効果などの今回提案した制度の実施状況を把握するとともに、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの生成に係るより広範かつ精度の高いシミュレーションの実施に向けた取組を推進するなど科学的知見の更なる充実を図っていくことが必要である。

中小企業者を含めた幅広い事業者がVOCの排出抑制に自主的に取り組むためには、特に中小企業者向けの低価格で小型のVOC処理装置の開発を推進するとともに、低VOCの塗料、インキ、接着剤等の開発を促進することが必要である。

また、VOCの排出抑制対策としては、塗料等の低VOC化が重要な対策手法の一つとして考えられるが、低VOC塗料等への転換は、これを用いて製造される製品の品質にも関わることから、低VOC塗料等を使用した製品に対する国民の理解を深めていくなどの普及啓発を行うことも重要である。

<参考資料>

環境省:「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制のありかたについて(意見具申案) 」(中央環境審議会第13回大気環境部会・配布資料 (2004.2.3)


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