2003年11/12月

★これまでの掲載分へ

1. 「2003地球環境保護・国際洗浄産業展」における主催者特別展示:EVABAT

昨年9月に開催された「2003地球環境保護・国際洗浄産業展」で、当協議会は、「新しい時代の化学物質管理=EVABAT=、洗浄用化学物質の自主管理高度化を目指して」と銘打った特別展示を行った。同展示内容は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構および株式会社富士総合研究所のご協力によるもので、以下に、同ブースで行ったプレゼンテーションの内容と8枚の展示パネルを紹介する。

(1) 新しい時代の化学物質管理へ

製造業においては、化学物質は不可欠で基礎を支える存在である。ところが、ヒトの健康や環境に対して悪影響を及ぼす可能性もある。これからは、リスクの評価、情報の流通や共有、管理の高度化を通して、化学物質の効用を最大限に引き出し、リスクを最小限に抑えるような化学物質管理の高度化が求められている。

(2) 化学物質の自主管理の必要性

PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度が本格的に開始されて、今年の3月には全国の集計結果も公表された。PRTR制度の開始に伴って、事業者々にとっては、これまで以上に自主管理への取り組みが必要となっている。

われわれが利用している化学物質の数は膨大で、国内では約2万8千物質が利用されている。ところが、特に長期毒性については、環境中に排出されたあとのヒト健康や生態系への影響が科学的にはまだ解明されていない物質が多く、従来から行われてきたような行政からの規制による対策を取ることが難しく、限界が出てきた。そこで、事業者による自主管理が必要となり、自主管理を進めることで、ヒトの健康や環境への悪影響の未然防止に貢献することができる。

(3) 化学物質のリスク

全ての化学物質には少なからずハザード(有害性)がある。たとえば、急性毒性や慢性毒性といったヒト健康への影響や、水生生物、陸上生物といった生態系への影響、オゾン層破壊や地球温暖化といった地球環境への影響など多方面で影響を及ぼす可能性を持っている。

これらの化学物質が、使用時に工場内での作業中に吸ったり、工場外の環境中へ排出されることによって、直接的あるいは間接的に摂取されることを暴露という。間接暴露は、化学物質が大気や河川などに排出される結果、ヒトや動物・植物の体内に、呼吸や飲料水、食物という形で取り込まれることによって間接的に摂取する形態をいう。工場などでは、各種法律で作業者の暴露量が管理されている結果、多くの場合はこの間接暴露とその量が問題となる。

化学物質のリスクとは、概念的には、ハザードと暴露量の掛け算で表される。ハザードが低い物質でも暴露量が多ければリスクとしては高くなり、また逆に、ハザードが高くても暴露量が抑えられていればリスクは低くなる。

(4) 化学物質のリスク削減

 このようなことから、化学物質の管理といえば、従来は、化学物質の有害性が重視され、ハザードを中心として管理が行われてきたが、近年は国際的にも、有害性と暴露量の両方を加味したリスク管理へと移行してきている。

これまでの事業者による自主管理をさらに進め、これからはリスク削減への取り組みが必要となる。リスク削減とは、現在使用している化学物質の使用量や排出量を減らすことや、ハザードの低い代替物質を利用することである。そのためには、使用している化学物質の特性を把握し、更なるリスク削減に向けて既存プロセスの諸条件の見直しや、汎用的な既存技術の組み合わせなどを積極的に検討・活用することによって、その使用量や排出量を低減することが必要である。

(5) EVABAT評価に基づいたリスク削減

 化学物質のリスク削減を進めるにあたっては、今後はEVABATの考え方に基づいた対策の導入が望ましいと考えられる。EVABATとは、経済的に実行可能な最良利用可能技術のことで、ISO14001(Economically Viable Application of Best Available Technology)において提示されている考え方である。                                                                                                                                                                                                                      

EVABATの考え方に基づいた技術評価を具体的に示すと次のようになる。まず、洗浄工程での化学物質の利用状況などを把握して、つぎに化学物質のリスクによる評価と、新規に導入する対策技術に関連するコストを定量的、総合的に評価することによって、事業者の方々それぞれの状況に応じた最適な技術が選び出されることになる。選び出される対策技術が個々の状況に応じて変わるので、固定的な技術を定めて推奨するといった考え方ではない。

(6) 流から下流まで統一した評価手法の開発と普及

EVABATによる評価は、将来的には最終製品組立メーカー、部品メーカー、化学メーカー、設備メーカーなど、化学物質のライフサイクル全体を通した共通指標として、経済社会活動の枠組みに組み込まれ、社会全体が化学物質の効用を最大に、リスクを最小にする方向に貢献することが望まれる。また、このような経済社会環境の新たな構築により、EVABAT評価手法は国際的にも優れた標準になると期待される。このようにEVABAT評価手法を組み込んだ経済社会では、事業者の自主管理の高度化はもとより、環境ビジネスの活性化や国際競争力の強化などが期待されることから、評価手法の早期の開発や技術情報の集積と流通を促す基盤整備が求められる。

(7) 本産業洗浄協議会での活動

 日本産業洗浄協議会は、これまで産業洗浄分野でのオゾン層保護対策の一環としてモントリオール議定書に基づく特定フロンの全廃を図り、更には、地球温暖化対策、PRTR、VOC抑制にも意欲的に取り組み、洗浄分野における我が国の産業界での環境対策を積極的に推進してきた。今後は、EVABATの分野での積極的な貢献はもとより、化学物質管理を取り巻く新しい潮流への対応として、関係諸機関との連携などにより、散在する技術情報の集約と活用、ユーザーニーズの汲み上げ、科学的知見の充実など、その活動分野を一層拡大してゆく計画である。

2.第15回モントリオール議定書締約国会合

昨年のモントリオール議定書締約国会合は第15回として、2003年11月10〜16日にナイロビ(ケニア)で開催された。

 同会合の概要は、経済産業省オゾン層保護等推進室の発表によると、以下の如くである。

2.1 定書に基づく措置の履行を促す決定について

@ モントリオール議定書北京改正の批准を促す措置

 ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)に係る規制については、消費規制を定めたコペンハーゲン改正(1992年)、生産量規制、貿易規制にまで規制を広げた北京改正(1999年)の2つの議定書改正が行われている。北京改正によれば、2004年当初から未批准国との貿易規制措置が発動されるのにもかかわらず、批准国は57カ国にとどまっており(我が国は既に批准済み)、非締約国の範囲をどのように合意するかが最大の争点であった。

(ステージ1:途上国の扱い) 今回の会議における実質的に最重要合意事項は、2016年までHCFCに関してはいかなる制限も課されていない途上国(5条国)について、一切の貿易制限措置が取られないことが確定したことである。これにより、我が国にとっては中国、韓国等、米国にとってはメキシコ等との貿易制限が発動されなくなったため、概ね商業上の実影響は排除されることとなった。

(ステージ2:先進国の扱いの原則) 他方、先進国(2条国)については、各国の批准を促進するため、原則として、北京改正未批准国は非締約国と見なされることとされ、貿易制限がかかりうることとされた。

(ステージ3:北京改正未批准先進国に係る例外的措置) しかしながら、同一物質(本件ではHCFC)に2つの改正で本質的に異なる義務が課せられることとなったことはモントリオール議定書上初めてであったこと等により、本件問題が認識されたのが今年の7月にまで遅れ、未批准国がそれぞれの国内で手続を完了するのが困難な状況が生じていた。このため、今後2年間(2005年の締約国会合終了日)の内に北京改正を批准する意志を有していること、また、実質上コペンハーゲン改正の内容を遵守していることを2004年3月31日までに通報することにより、今後2年間は
暫定的移行措置としてステージ2の貿易規制を免れうることとされた。

A 規制の適用除外措置の縮小を促す措置(クロロフルオロカーボン(CFC)をぜんそく用吸入薬(MDI)に使用するための不可欠用途除外措置)

 先進国において1996年に消費・生産が全廃されたCFCは、MDIへの使用についてはそれ以降も除外措置が認められている。しかしながら、全廃後かなりの年月が経過したにもかかわらず、依然として除外措置の適用を求める申請が提出され続けている(米、ロ等)。このことから、CFCのMDI用途除外措置の全廃に向けて、除外措置適用の申請を行っている国は、MDIに使用するCFCを全廃する予定日とそのための具体的な措置を明らかにした計画を提出することが決定された。

 なお、我が国では、CFCのMDIへの使用は2004年末で終了する予定。

2.2 臭化メチルに関する規制措置について(主として農林水産省関係)

 今回の締約国会合では、臭化メチルに関し、主に以下のような議論がなされた。

@ 途上国に対する臭化メチルの生産・消費量の削減スケジュール

A 先進国における不可欠用途の承認申請について

B 途上国における不可欠用途の承認について

 これらをはじめ、今回の締約国会合において議論がまとまらなかった臭化メチルに関する議論を進めるため、来年3月に臨時締約国会合を開催することが決定された。

2.3 その他の主な決定について

@ オゾン層破壊物質の破壊技術(日豪共同提案)

 各国においてオゾン層破壊物質を破壊処理する際に求められる、破壊技術に関する基準及び破壊を実際に行う場合の適切な運用方法について決定された(→途上国側からの「回収破壊はコストがかかる上、モントリオール議定書上の義務ではない。」旨の意見が出され、それを取り入れた形の決議採択に至ったことに要留意。)。

A 断熱材の廃棄時の措置(日本単独提案)

 TEAPに対し、オゾン層破壊物質を含んでいる断熱材の廃棄時の回収破壊措置について、技術的・経済的な影響に特別の注意を払いつつ、その手法の検討を行い、2005年4月に作成する報告書に盛り込むことを求めることが決定された(→独自のタスクフォースを設けず、年次報告書の一部という形で決着。)。

B 科学パネル、環境影響パネル及びTEAPの業務指示書

 2002年に科学パネル、環境影響パネル及びTEAPの3つのパネルで作成された各報告書の統合報告書が説明され、モントリオール議定書が完全に遵守されたとしても、今後10年間成層圏オゾン層は脆弱なままであること等が説明された。

 また各パネルに対し、2006年末までに2002年の報告書を見直した新たな報告書を作成し提出するよう要請され、オゾン層回復の見込み、気候変動がオゾン層に与える影響等、その際に盛り込むべき項目が決定された。

2.4 今後の開催予定

 モントリオール議定書第16回締約国会合は、プラハ(チェコ)で、2004年11月22〜26日に開催される。

 図1 新しい時代の化学物質管理へ

 図2 化学物質の自主管理の必要性

 図3 化学物質のリスク

 図4 化学物質のリスク削減

 図5 EVABATとは?

 図6 EVABAT評価に基づいたリスク削減

 図7 上流から下流まで統一した評価手法の開発と普及

 図8 日本産業洗浄協議会の活動


2003年9/10月

★これまでの掲載分へ

1. 「揮発性有機化合物(VOC)排出抑制検討会

環境省は、このほど、大気汚染に関係して、固定発生源からの揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制についての検討を開始した。

VOCは、大気を汚染する浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダント(Ox)の原因となる疑いがあるとされている。最近の大気汚染悪化を防止するために、VOCについて、従来の環境基準(二酸化窒素、二酸化硫黄、一酸化炭素、光化学オキシダントおよび浮遊性粒子状物質の5項目)に追加して規制措置を行うことを検討するものである。

1.1 大気汚染防止の法規制

従来、大気汚染に係る環境上の条件については、公害対策基本法(1967年制定、1993年に環境基本法に改定)において、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準」として“環境基準”が定められている。

 この環境基準は、二酸化窒素、二酸化硫黄、一酸化炭素、光化学オキシダントおよび浮遊性粒子状物質について数値が設定されているが、その他に大気汚染に係わる物質として揮発性有機化合物(VOC)、ばい煙、自動車排出ガス等が議論の対象とされている。

1.2 光化学オキシダント

光化学オキシダントは、工場、事業所や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や非メタン炭化水素類(HC)を主体とする一次汚染物質が太陽光線の照射を受けて光化学反応により二次的に生成されるオゾンなどの総称で、いわゆる光化学スモッグの原因となっている物質である。強い酸化力を持ち、高濃度では眼やのどへの刺激や呼吸器に影響を及ぼし、農作物などにも影響を与える。

光化学オキシダントに係る環境基準は、“1時間値が0.06ppm以下”である。2002年の光化学オキシダント注意報の発令の延べ日数は、184日(23都府県)で、過去10年間で3番目に発生日数の多い年となった。

光化学オキシダントは、大都市部で排出された原因物質が移流拡散する過程で光化学反応を起こし、広域的に発生することから、県域を越えた対策を講じることが重要であるとされている。

 光化学オキシダントの原因物質と考えられている窒素酸化物および炭化水素類の排出削減については、逐次規制の強化が検討されてきた。

1.3 浮遊粒子状物質(SPM)

大気中の粒子状物質は「降下ばいじん」と「浮遊粉じん」に大別され、さらに浮遊粉じんは環境基準の設定されている浮遊粒子状物質とそれ以外に区別される。

浮遊粒子状物質(Suspended Particle Matter, SPM)は、大気中に浮遊する粒子状の物質(浮遊粉じん、エアロゾルなど)のうち粒径が10μm(マイクロメートル、μm=1000分の1mm)以下のものをいう。

 浮遊粒子状物質は、微小なため大気中に長時間滞留し、肺や気管等に沈着して高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼす。 浮遊粒子状物質は、発生源が多種多様であり、かつ発生機構が複雑であると考えられており、発生源から直接大気中に放出される一次粒子と、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素類等のガス状物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子がある。一次粒子の発生源には、工場から排出されるばいじんやディーゼル排気粒子等の人為的発生源と、黄砂や土壌の巻き上げ等の自然発生源がある。

 近年は、浮遊粒子状物質の中でも、粒径が2.5μm以下のの微小粒子状物質(PM2.5)と健康影響の関連が問題視されつつあり、各種の調査、検討が行われてきた。

1.4 揮発性有機化合物(VOC)の問題に関する調査

 わが国における浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準達成率は、2001年度に、一般環境大気測定局で66.6%、自動車排出ガス測定局で47.3%であった。いずれも2年連続して前の年度から大きく低下した。このSPM濃度は、二次生成粒子の寄与が大きいとされ、特に揮発性有機化合物(VOC)に起因した二次生成が大きな割合を占めていると考えられている。

 環境省は、2002年度に、揮発性有機化合物(VOC)の排出に関する調査を企画、(社)環境情報科学センターが受託調査を行うことになり、環境省は産業界の実態を把握するために、「揮発性有機化合物排出に関する研究会」を2002年7月に設置した。同研究会は2003年3月までに5回の会合を行って調査報告書のまとめを支援し、(社)環境情報センターは、13工業団体他のヒアリング結果等をまとめた調査報告書を2003年3月に発表した。

1.5 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制の検討

 環境省は、2002年度の大気汚染状況を去る9月10日に発表した。浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準の達成率は、一般環境大気測定局で52.6%と前年度比約10%の減少となった。環境省は、本調査結果を踏まえて、環境基準の早期達成に向けて、工場・事業場の排出ガス対策、自動車排出ガス対策、低公害車の普及等を総合的に推進することを表明した。

 環境省は、固定発生源からの揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制のあり方についての検討を計画、「揮発性有機化合物(VOC)排出抑制検討会」を設置し、その第1回会合をさる9月29日に開催した。同検討会の目的等は以下の通りである。

目的

 浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準達成率は、大都市地域を中心に低い状況で推移している。SPMは様々な物質で構成されているが、揮発性有機化合物(VOC)、硫黄酸化物(SOx)等のガス状物質が大気中で粒子化した二次生成粒子の寄与が比較的高いことが分かってきた。また、光化学オキシダントによる大気汚染についても依然として厳しい状況にある。光化学オキシダントは、VOCを含む有機化合物よ窒素酸化物が大気中で反応することによって生成されることが分かっている。このようにVOCは大気汚染に深く関与しているにもかかわらず、国の現行制度では固定発生源からのVOCは規制対象となっておらず、その排出抑制の取組が喫緊の課題となっている。このためVOC排出抑制の技術論および制度論の検討を行う。

・検討スケジュール

 11月までに4回の会合を開催、以下の10工業団体に対するヒアリングを行いながらまとめた結果を、12月の中央環境審議会に答申、次期通常国会に揮発性有機化合物規制法案を提出する。

ヒアリング対象工業団体

 (社)日本自動車工業会、(社)日本化学工業協会、(社)日本印刷産業連合会、石油連盟、全国石油商業組合連合会、日本ゴム工業会、(社)日本塗料工業会、印刷インキ工業会、日本産業洗浄協議会、日本接着剤工業会。

・VOCの定義

 VOCに関する定義には諸説があり、日本では公的に確定したものはないが、環境省が、今回の検討では、“VOCとは、Volatile Organic Compoundsの略であり、揮発性有機化合物と訳す。メタンを除く沸点250℃(1気圧)以下の物質およびそれらの混合物と定義。一般的には、沸点が低く大気中へ揮発しやすい有機化合物の総称であり、炭化水素のほか、アルデヒド、アルコール、エステル、ケトン等の化合物の多くが該当する”としている。

<参考資料>

1)(社)環境情報科学センター:「平成14年度揮発性有機化合物(VOC)排出量に関する調査報告書=VOC排出抑制対策技術動向=」(2003.3)

2)(社)環境情報科学センター:「平成14年度揮発性有機化合物(VOC)排出量に関する調査報告書=VOC排出インベントリー=」(2003.3)

3)環境省:「揮発性有機化合物(VOC) 排出抑制会(第1回)・配布資料」環境 省環境管理局大気環境課(2003.9)

2. 「第6回オゾン層保護・地球温暖化防止大賞」を日鉱石油化学鰍ェ受賞

 日刊工業新聞社が主催する「第6回オゾン層保護・地球温暖化防止大賞」の贈賞式が去る9月10日に行われた。当協議会会員からは、日鉱石油化学鰍ェ、“フロン、エタンの代替洗浄剤の開発と普及”により審査委員会特別賞を受賞した。

<表>受賞者一覧

2.1 受賞者と審査概評

 今回の受賞者は、表1の通りで、20件の応募から選ばれた7件であった。以下は、審査委員長の中井武氏(新潟大学大学院教授)の審査概評である。

 “「オゾン層保護・地球温暖化防止大賞」は、オゾン層保護対策と地球温暖化防止対策の一掃の促進と取り組みの重要性の認識に立ち、これまで過去5回の「オゾン層保護大賞」から名称を変更した。今回の応募は全国から20件を数え、企業、団体、個人からと幅広いものとなった。 

 内容は先進的かつ積極的な取り組みが伺われ、いずれも高く評価できるものだ。審査委員一堂感心するとともに、選考にあたっては大変な苦労をした。応募いただいた業績については総合評価と分野別評価を行い、その採点結果に基づいて慎重なに審査し、その上で経済産業大臣賞1件、環境大臣賞1件、優秀賞3件、審査委員会特別賞2件を選んだ。

 経済産業大臣賞に選ばれた鐘淵化学工業は世界初の完全ノンフロン発泡剤による高断熱性の押出法ポリスチレンフォームの開発、普及を通じオゾン層保護、地球温暖化防止に貢献していることを評価した。今後、製造使用される断熱フォームについてフロン回収・破壊の必要がなく、これからの地球環境に大きな負荷を与えないという意義は大きい。 

 環境大臣賞に決まった群馬県フロン回収事業協会は、いち早くフロン回収・破壊システムの構築に取り組み、県内にあるフロンの回収を徹底し、適正な処理の促進を図り、フロン回収に関わる社会づくりへの取り組みを評価した。

 優秀賞は次の3件とした。旭化成建材はフロン系発泡剤を用いず、初期断熱性能に優れ、かつ長期間断熱性能を維持する発泡樹脂系断熱材の技術開発・実用化・製造販売により地球環境に充分新しい配慮をしていることを評価した。タクマは廃家電リサイクル施設と廃棄物焼却処理施設の複合施設によるフロン回収・破壊処理技術の構築、デンソーは給湯機用自然冷媒(CO2)ヒートポンプの開発により、家庭内エネルギー消費の3分の1を占める給湯エネルギーの省エネ化に貢献していることを評価した。

 また、アキレスの硬質ウレタン断熱ボードのノンフロン化技術開発と、年間約5万トンのエタン削減に貢献している日鉱石油化学の代替洗浄剤の開発、普及がそれぞれ審査委員会特別賞にそれぞれふさわしいと考え選考した。

 この他にも受賞業績に勝るとも劣らない業績が数多くみられ、今回賞を逸したといって決して落胆されるようなものではないと考えている。今後はますます地球温暖化対策を視野に入れた応募が多く出てくると予想されるが、地球環境保全に向けた取り組みをさらに強化されていくことを期待している。”

2.2 日鉱石油化学鰍フ受賞:代替洗浄剤NSクリーンの開発

<写真>今回の各受賞者 <写真>賞状を受け取る日鉱石油化学叶」野社長

 日鉱石油化学は、石油化学製品の製造・販売を通じて培った技術を活用し、CFC-113(以下「フロン」)、

1,1,1-トリクロロエタン(以下「エタン」)の代替洗浄剤として炭化水素系洗浄剤NSクリーンシリーズを開発、92年に上市した。

 上市以来、NSクリーンは順調に販売量を伸ばし、02年度実績で販売量は年間約1万KL、使用ユーザー数は4千社を超えている。かって、エタンは金属洗浄分野を中心に年間20万トンの需要があったと言われるが、転換事例からの試算では、NSクリーン1KLの使用がエタン約5万トンの削減に相当するため、NSクリーンへの代替によるフロン、エタンの削減量は年間約5万トン(02年度、エタン換算)となり、前述需要量の約25%に相当する量の削減に貢献していると推定される。

 さらに近年、HCFC-141b、HCFC-225等新規規制物質からの代替ユーザーも増加傾向にあり、それらの物質の円滑な削減にも寄与している。

 NSクリーンは、原油からの灯油留分を水素化脱硫、溶剤抽出、精密蒸留の工程により純度を高めることで、単一の化学物質として生産されている。その最大の特長として、蒸留再生による加工油との分離効率が高く、また、性状が変化しないことからリサイクル再使用が可能となる。リサイクルが使用量の削減につながり、かつ環境に対する負荷の軽減にも寄与することから、フロン、エタンの代替にあたって、この性能が高く評価されている。

 一方、洗浄装置メーカーと連携し、単一物質の特長を生かした減圧蒸留装置、蒸気洗浄機等の開発にも積極的に取り組んできており、洗浄装置の技術開発、洗浄分野でのシステム整備についても支援している。また、専任スタッフによる最適な洗浄システムの提案や最新鋭の機器と技術スタッフによる分析サービス等、きめ細かいテクニカルサービスも充実させている。更にはオゾン層保護対策産業協議会や日本産業洗浄協議会の活動に積極的に参画し、「オゾン層保護技術に関する国際会議」、「日中代替洗浄技術セミナー」、「先端技術普及セミナー」など多くの場で、金属洗浄分野における代替技術の発表による啓蒙を行っている。

<参考資料>

日刊工業新聞社:「第6回オゾン層保護・地球温暖化防止大賞受賞業績成果一覧」(2003.9)

3. オゾン層保護対策の経験を活かすために「オゾン会」設立の準備始まる

 南極オゾンホールの回復は、21世紀半ばまでかかると予測されているが、今年のオゾンホールは過去最大規模になると気象庁も発表し、改めて成層圏オゾン層保護対策に注目が集まっている。

 オゾン層保護対策はすでに終了したという見方もある一方、途上国における主要なオゾン層破壊物質の全廃対策はこれからであり、最近は中国を含む東南アジアでから、オゾン層保護対策活動への支援を求める声が大きくなっている。

 日本においても、使用中のオゾン層破壊物質の回収・破壊に関する取組が、法令の整備とともに活発となってきた。

 来年は、ローランド、モリーナ両博士の論文「人工化学物質による成層圏オゾン層破壊の仮説」が発表されて30年の節目の年を迎え、改めてオゾン層保護対策への関心が高まっている。

 モントリオール議定書の署名(1987年)から、主要なオゾン層破壊物質全廃(1996年)に至るオゾン層保護対策活動がピークであった頃に産業界の第一線で関わった関係者は、現役を退いた人も多くなっている。

 この時期に、新旧の関係者が話し合う場が欲しいという自然発生的な気持が生まれていたが、さる9月30日に一つの会合が開催された。

 これは、有限責任中間法人オゾン層・気候保護産業協議会が企画した国際ワークショップ「HFC、PFC、SF6排出削減方策の動向と国際協力」(9月29日大阪、10月1日東京)に参加する海外のオゾン層問題専門家を招くために急きょ準備された。

 当協議会は、産業洗浄分野におけるオゾン層保護対策の必要性から自発的に有志が糾合して設立されたユニークな工業団体であり、特に中国で初めて開催される「2003洗浄技術国際フォーラム・展示会」への積極的協力を計画中である。当協議会の運営委員会は、そのような背景を踏まえて、発起人への参加、事務局業務に対して協力することを決定した。

 同会合は、「第1回オゾン会懇談会」として、9月30日にメルパルク東京で開催され、約50名の関係者が参加し、その中の当協議会会員は、14名(団体会員所属会員を含めると21名)であった。海外からの招待者は、

アンダーセン博士(米国環境保護庁、「産業界の天才達」の共著者)、ゼルケ博士(カリフォルニア大学教授、「産業界の天才達」の共著者)、ペネロープ・キャナン博士(デンバー大学教授、「オゾン・コネクション」の共著者)で、オゾン層保護対策に関係する最近発行された書籍も紹介された。「産業界の天才達(Industry Genius)」は、オゾン層保護および地球温暖化対策で世界をリードした10の研究所が取り上げられており、日本からはセイコーエプソン梶Aホンダ梶A独立行政法人産業総合技術研究所フッ素系等温暖化物質テクノロジーセンターが選ばれている。「オゾン・コネクション(Ozone Connection)」は、モントリオール議定書に基づいて組織された世界の専門家集団である、技術・経済アセスメントパネル(TEAP)の活動振りを、数多くの関係者へのインタビューで紹介し、オゾン層保護対策活動を支えたアンダーセン博士を中心とした各委員の貢献と、TEAPのチームワークの功績を取り上げている。

 以下に、今回の会合で紹介され、今後のオゾン会としての活動を提案した「オゾン会(仮称)設立趣意書」を紹介する。

オゾン会(仮称)設立趣意書

 昨年は、“オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書”採択の15周年に当たり、来年は、ローランド/モリーナ両氏が人工化学物質による成層圏オゾン層破壊の仮説を発表して30年となります。 このような経緯で、成層圏オゾン層保護の国際活動は、歴史的に高く評価される地球環境問題となりましたが、南極オゾンホールは、まだ消滅した訳ではなく、今後も国際協力が必要とされております。

 オゾン層保護対策のこれまでの活動は、国内では、政府、公的機関、産業界、民間団体等の所属する多数の方々によるネットワーク活動で支えられてきました。また、国際的には、各種公的会合、UNEP関連の組織的活動、産業界の交流で、幅広く日本のリーダーシップと国際協力が高く評価されております。

 ウィーン条約採択以来18年、モントリオール議定書採択以来16年を経た今日では、当時活躍した方々には、第一線の舞台から退かれる方や、オゾン層保護対策以外の領域で活躍される方が増えており、経験の伝承が必要とされております。

 当時の政府、産業界でオゾン層保護対策の活動に係わった関係者で交流を図る場を設立し、同時に現在オゾン層保護対策活動に係わる方々にもご参加頂き、オゾン層保護の過去の経験を生かし、更なる継続を図ることをを目的に、今回、「オゾン会(仮称)」を設立致したく、ご提案申し上げます。

2003年9月30日

オゾン会(仮称)」発起人(50音順)
石井健雄、井上礼之、井利儀一、上村茂弘、小田切力、木下正利、小島直樹、関屋章、徳永洋一、藤本祐一、西出徹雄、長谷川嘉一、原 穆、福島哲郎、藤岡順次、松井茂雄、山辺正顕


2003年7/8月

★これまでの掲載分へ

1. 産業構造審議会の中間報告「環境立国宣言」

 “企業経営と環境の両立”についての議論が経済産業大臣の諮問機関“産業構造審議会”で進行中であることは本月報の3月号で紹介した。

 このたび、第6回会合(2003年4月23日)で、その中間報告書が「環境立国宣言:環境と両立した企業経営と環境ビジネスのあり方」としてまとめられた。以下に各章の概要を紹介する。

1.1 序章:検討の背景

 地球温暖化、資源・廃棄物問題等の環境・資源制約が益々高まる中で、如何に環境と経済を両立させ、持続可能な経済社会を構築するかが喫緊の課題である。

 近年、環境への取組を、企業競争力、ビジネス開拓の重要な要素と捉え、企業経営上不可欠である収益性も加味した「持続可能な経営」、「環境と両立した経営」を実践する企業も多くなってきている。

 このような民間企業による持続可能な「環境経営」をわが国の経済社会システムに定着させていくことが、地球温暖化対策、廃棄物・リサイクル対策、化学物質管理対策等の我が国が直面する環境問題を解決する上で重要な課題と言える。

 そのため、本「産業と環境小委員会」では、現在の我が国企業による環境に配慮した経営の実態や独創的なビジネス・モデルの状況、さらには消費者、市民活動、自治体における環境保全活動の状況をレビューしつつ、「環境と経済の両立」という地球規模の課題に対して、我が国経済社会の進むべき方向性について、検討を行った。

1.2 第1章:産業活動を巡る環境問題の変遷

 産業を取り巻く環境問題は、60年代の産業活動に起因する産業公害問題から、あらゆる経済社会の主体が原因者である地球環境問題、廃棄物・リサイクル問題、化学物質管理問題等に複雑化・多様化している。

 これらに対して、環境政策も産業活動を規制する公害規制法から、あらゆる主体の取組を求める各種のリサイクル法制、情報的手法、経済的手法等の新しい環境政策手法も採用されている。

 一方、企業活動も大きく変化しており、公害規制法による受け身の対応から自主的な環境に配慮した企業経営が進展している。これは、ISO14001認証取得の拡大や環境報告書の作成企業の拡大等に見てとれる。

 このような中で、環境ビジネスの市場規模は今後拡大が見込まれており、産業構造審議会において、自律的な環境ビジネス発展上の課題(環境経営手法の開発、独創的なビジネス・モデルの促進等)が検討されてきている。

1.3 第2章:環境と経済の両立に向けた論点

 環境と経済の両立を実現する上で、経済性を求められる企業活動と環境保全活動を如何に調和させていくかという点でいくつかの論点を整理している。

第1に、環境制約をチャンスと見る企業とリスクと見る企業があるが、自主的に環境対策に取り組む企業が競争力を有する市場のあり方や環境コスト負担、市場での供給者と消費者の役割、企業の社会的責任論等の市場と環境を巡る論点。

 第2に、企業活動がグローバル化している中で、海外市場と国内市場の環境規制・基準の整合性が企業の競争力を左右するという論点。

 第3に、環境対策を経済性ある形で企業が行う上での環境規制と企業の自主的な取組との関係、現行の企業規制を主とする環境規制行政や経済的手法のあり方を巡る論点。

第4に、環境技術に係る技術体系のグリーン化や異分野連携等を巡る論点。

1.4 第3章:環境と両立した企業経営を巡る現状と課題

 本章では、企業活動の様々な面において環境配慮が進んできている現状を整理するとともに、課題を抽出している。

 まず、企業活動において、生産プロセスにおける省エネルギー、廃棄物のゼロエミッション化による経営効率改善や環境に配慮した製品・サービスの供給(LCA、DfE、環境効率等の活用)が進展しており、また自主的な環境経営管理システムの導入(EMS、ガバナンス、環境管理会計等)も進展してきている。

 さらに、企業が環境に関わる情報を積極的に市場のステークホルダーに公開・提供するようになってきている(環境報告書、環境ラベル、環境広告等)。

 一方、このような企業の自主的な取組の進展とともに、グリーン購入・調達の進展やエコファンド、環境格付け等市場のステークホルダー側からの企業への要求も高まりを見せている。

 今後、環境と経営を両立させた企業の自主的な環境経営を促進させる上で、人的・技術的支援、企業の独自性・自主性を促進する支援策等の課題を抽出。

1.5 第4章:環境ビジネスを巡る現状と課題

地球温暖化対策、廃棄物・リサイクル対策、化学物質管理対策等、わが国社会経済を取り巻く環境問題に対して、持続可能な経営を支える新たな環境ビジネスモデルの創出が見られる。

 しかしながら、多様な環境ビジネスが進展しているものの、環境ビジネス立地の際のパブリック・アクセプタンス、異分野交流促進のためのネットワーク化、地方自治体による官営ビジネスの拡大等の環境ビジネス拡大に向けた課題、動脈産業の既存設備活用の促進、スケール・メリット追求のための広域連携の促進等の循環ビジネス拡大のための課題を抽出。

1.6 第5章:市民・企業・行政共同による環境保全活動の現状と課題

 環境関係の市民活動が活発化しており、その中には企業や行政との連携等によりコミュニティ・ビジネスへ発展するものもあり、地域活性化に資する環境ビジネスやまちづくり活動として無視できない状況である。

 今後、環境保全活動を国民運動として発展させていく上で、市民活動への支援や自主的な地域レベルでの市民、企業、行政のネットワーク構築、産業と社会が一体となったまちづくりの促進等が求められている。

1.7 環境と経済の両立に向けた提言(第6章)

 今回の「中間報告(案)」の構成は、“第6章 環境と経済の両立に向けた提言”を除いて、前回の小委員会での「中間とりまとめ(案)」の内容を殆ど踏襲して、一部の表現を変更して内容の充実をはかっている。

 しかし、“第6章 環境と経済の両立に向けた提言”は、内容を倍増させ、以下のような構成で、地方自治体と国に対する期待を個別に分けて詳述している。

@ 企業に対する期待=企業経営のグリーン化=

A 市場のステークホルダーに対する期待=市場のグリーン化=

B 地方自治体に対する期待=地域政策のグリーン化=

C 国に対する期待=国家政策のグリーン化=

 環境と経済の両立した経済社会を構築する上で、経済活動の主体である企業、市民、消費者、行政等が自主的な環境に配慮した活動をとるとともに、ステークホルダーへの適切な情報提供を行うことで、個々の主体の活動から国民活動へと発展することが重要である。

 第1に、企業経営のグリーン化が期待され、コーポレート・ガバナンスや生産システム・製品のグリーン化等、企業活動のあらゆる面に環境配慮をビルトインしていくとともに、積極的な環境情報の提供、ステークホルダーとの交流・協調により、競争力ある自主的な環境経営を進展することが期待される。また、異分野連携や既存生産システム活用による独創的な環境ビジネスへの挑戦を期待する。

 第2に、環境に配慮した製品のサービスや企業経営が競争力を有するためには、市場のグリーン化が期待され、企業のみならず、株主、取引先等のステークホルダーの行動が市場で環境配慮製品や経営を評価し、かつ、企業活動を環境対応に向かわせる役割も大きく、企業間取引におけるグリーン調達、金融機関における環境対応の評価に基づく投融資による支援、企業の従業員はじめ市民活動のグリーン化を期待する。

 第3に、地域政策のグリーン化として、地方自治体における市民活動と産業活動のコーディネートによる環境と調和したまちづくりの推進、環境関係のパブリック・マーケットの開放、環境関係の市民活動・環境学習への支援や環境教育の推進といった地域のまちづくりによって地域経済の活性化に積極的に取り組むとともに、これらの取組みを環境と経済が両立した地域モデルとして、国内外に発信することによる交流人口拡大等の地域活性化を期待する。

 第4に、国家政策のグリーン化として、企業の自主的な環境経営に対する取組への支援、国際市場と整合性ある環境基準や物質循環ネットワークの構築、グリーン購入拡大等の需要側の取組の促進、環境保全に係る多様な人的ネットワークの構築、環境規制法をはじめとする法体系の見直し等を提言する。

<参考資料>

1)経済産業省の審議会に関するホームページ

 http://www.meti.go.jp/committee/main.html

2)経済産業省産業技術情報局環境政策課

 「環境立国宣言=環境と両立した企業経営と環境ビジネスのあり方=産業構造審議会環境部会産業と環境小委員会中間報告(案)」(2003.4.23)

3)「産業構造審議会環境部会第6回産業と環 境小委員会」(配布資料)(2003.4.23)

2.「2003年版環境白書」

環境省が毎年発表する「環境白書」の本年度版(2003年度)は、さる5月30日の閣議決定を経て発表された。今回の環境白書は、第1回の公害白書から数えて第35回目となり、そのテーマは「地域社会から始まる持続可能な社会への変革」である。

昨年の副題は、“動き始めた持続可能な社会づくり”とあって、2年連続して“持続可能な社会”(持続可能な開発)の概念が取り上げられている。

 “持続可能な開発”は、1992年開催の地球サミット(リオデジャネイロ)で採択されたアジェンダ21に盛り込まれた基本概念であり、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミット)で、“持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言”により、具体的な行動をさらに進めて行くことが再確認された。

 今年の白書は、この宣言を受けて、特に個人一人ひとりの環境意識と、地域社会の行動が重要であることを強調している。

2.1 今年のテーマ“地域社会から始まる持続可能な社会への変革”

 産業界の環境問題への対応は、個人および地域社会の動きを深く理解した上で行わなければいけない時代となっている。この中心テーマは、同書の中で、“地域環境力”という新しい概念を導入して、解説されている。

2.2 環境白書の構成

 環境白書は、前年度の“環境の状況及び政府が環境の保全に関して講じた施策に関する報告”(2002年度年次報告)と新年度において“前項の報告に係る環境の状況を考慮して講じようとする施策”(2003年度施策)とからなり、今年の白書の目次は表1のごとくである。

 前年度年次報告には、“第1部 総説”が年次報告の前に付されている。この総説は、一昨年度の白書から新たに設けられた部分で、毎年のテーマについて論じたものである。今回は、その“第1部 総説”の内容について、個人および地域社会レベルでの環境問題対応の諸問題を中心に取り上げている。

2.3 序章:地球環境の現状と足元からの取組の展開=第1節:地球環境の現状と社会

昨年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミット)では、10年前に決定された行動計画“アジェンダ21”以降の取組を振り返って、今後の行動について議論された。 地球規模の環境問題は、われわれの経済、社会と密接な関わりをもって引き起こされている。

 序章の第1節では、以下の3項目についての現状を分析し、地球上の環境容量や資源量の制約といっ地球的規模の限界に直面しつつある今日、地球規模での持続可能な社会を構築していくためには、地球の構成単位であるわれわれ一人ひとりや地域が日常生活や地域社会から環境負荷の低減を図っていくことが必要であると主張している。

(1)社会経済の変化

(2)地球環境の状況

@地球温暖化

A森林減少

B土壌劣化

C淡水資源を

 

(3)地球規模での社会、経済との関わりからみた環境の状況

@環境、経済、社会の相互作用

A水問題と人口増加

Bエコロジカルフットプリント

2.4 序章第2節:足元からの持続可能な社会の構築

このような問題は、地域で暮らす人間の営みによって引き起こされ、それはさらに個人のレベルの活動に根を持っている。このような関係を踏まえると、地球の構成単位であるわれわれは一人ひとりや地域が日常生活、地域社会から環境負荷の低減を図っていくことが、地球規模での持続可能な社会を構築していく上での原動力となり得る。

われわれの日常生活が変わっていくと、生活のための製品や世の中の仕組みも変わっていって、持続可能な社会への変化は急速に加速化していくものと期待できる。

2.5 第1章:持続可能な社会の構築に向けた一人ひとりの取組=第1節:一人ひとりの行動に影響を及ぼす社会経済の変化

 第1章では、一人ひとりの日常生活における取組

 

に着目し、環境問題の原因となる環境負荷のうち日常生活からの負荷が大きくなっていることを示した上で、日常生活における環境保全に向けた具体的な取組とその効果を示し、一人ひとりの取組が企業や行政等その他の主体の取組と相互に影響を与えあうことにより大きな効果を生むことを明らかにしている。

 また、このことにより、一人ひとりが環境保全の取組を行うことの必要性に気づき、日常生活における取組を自主的・積極的に進めていくことが何よりも重要であるとしている。

2.6 第1章第2節:一人ひとりの日常生活からの環境負荷と取組の効果

このように、日常生活からの環境負荷は大きく、さまざまな環境問題の原因となっている。本節では、日常生活のどの場面から環境負荷が生まれるかを調べ、日常生活で実践できる環境保全に対する取組の可能性を考えている。

(1)日常生活がもたらす環境負荷

(2)日常生活における環境負荷の低減と具体的な効果

2.7 第1章第3節:一人ひとりの取組が持つ大きな可能性

 本節では、一人ひとりが具体的な行動に至るまでの過程と要因について考え、一人の取組が波及的に広がることにより、大きな効果を生む可能性があることを考察している。

2.8 第1章第4節:一人ひとりとその他の主体との関わりを通じた社会経済システムの変革

個人の一日、一生の生活は、さまざまな主体と関わりを持ち、相互に影響を及ぼしあっている。本節では、企業、行政、その他の主体(NPO、マスメディア等)と個人との相互関係を取り上げている。

2.9 第1章第5節:持続可能な社会に向けた新たな展開

これからの持続可能な社会のライフスタイルがどのようなものとなるかを考えるために、その手がかり、新しいライフスタイルの提案と、今後の進め方を考えている。

2.10 第2章:地域行動から持続可能な社会を目指して

第2章では、地域段階における取組は、地球環境問題への対応の基礎となるとして、一人ひとりが、環境について、まず生活の場である地域社会の中で考え、具体的な行動を起こしていくことの大切さを強調している。


これまでの掲載分:   
1999年: 7月 12月
2000年: 1月 2月 3月 4月 5月 6月
2000年: 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2001年: 1月 2月 3月 4月 5月 6月
2001年: 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2002年: 1月 2月 3月 4月 5月 6月
2002年: 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2003年: 1月 2月 3月 4月 5/6月
2003年: 7/8月 9/10月 11/12月
この頁のトップに戻る